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先崎学
九段
第14期竜王戦2組昇級者決定戦(2001年3月26日)
私が31歳の時の竜王戦です。いわゆる指し盛りのころで、将棋というゲームは最後は自分が勝つものだと、今にして思えば恥ずかしながら本気で思っていたころの一局です。
お相手は田中寅彦さん。最後はどうせ勝つと思っているから序盤は適当に矢倉にしました。矢倉なら奨励会のころから同世代の俊英たちと勉強してきましたから。
ところが、田中さんの序盤がうますぎるんです。矢倉から相穴熊という妙な将棋になったんですが、気がついたら向こうだけ攻める権利があって、その攻めが無茶苦茶に厳しくて。駒がぶつからないうちに大差なんです。
案の定玉頭から好き放題攻められ私の玉まわりだけ大炎上です。
ただ、当時の私は根性と執念だけで業界を生きていましたから、粘りに粘って最後はなんとか勝ちました。
田中さんと指すといつも序盤感覚の差をおもいしらされました。
ニュートンと大学の数学科の学生が戦うようなもので、いつもヒーヒーいいながら体力だけで勝負してました。
その田中さんも引退。偉大な先輩ともう公式戦が指せないのはさみしいです。