田中寅彦
九段
第30期名人戦、昭和46年4月に始まった大山、升田、最後の名勝負は、やはり忘れられない。
私は中学二年生になったばかりで、アマ初段を筆頭に沢山の将棋仲間達と遊び始め、将棋の楽しさがわかり始めた頃だった。
どうしたら強くなるか?と考えて、プロ最高峰の対局、解説、講座が詰め込まれていた月刊誌将棋世界や、今はなき近代将棋などを読んで分かったような気になっていたが、大山、升田の7番勝負を見て、これが本物の勝負か!と、背筋が寒くなった。
特に4月20日21日の第二局と4月30日5月1日の第三局は、升田流早石田戦法を世に知らしめた名局だが、大山名人の何度殴られても再び立ち上がる見事な粘りで、二局共200手越えの死闘であった。
私がプロ棋士を目指したのは、この2人が演じたゾクゾクする勝負を、自分もしたくなったからだ!