高橋道雄
九段
棋士生活も40年を超えると、印象深い対局も多くあって、選ぶのに迷う。
この場では、その中でも特に思い入れのある一局である昭和58年5月9日、
第24期王位リーグの対大山康晴15世名人戦を挙げたい。
本局はこの後の飛躍の切っ掛けとなった、自分の棋歴の中でもターニングポイントの一局だ。それまでの対戦は2戦して2敗。どちらも大熱戦になるも、大山流の勝負術の前に力尽き、涙を呑んだ。
本局までのリーグ戦績は、幸先よく2連勝。もしここでこの大きな壁を乗り越えることが出来たなら、夢の五段でのタイトル挑戦が現実味を帯びてくる。
とてつもない試金石の一番に、対局前は内なる高揚が抑え切れない。
結果、これ以上の内容の将棋はそうは指せないといえるくらいの出来で勝利。
この一局で深めた自信が、後のタイトル初挑戦、そして初のタイトル獲得へとつながっていく。