

戸辺誠
七段
第62期順位戦A級(2003年5月30日)
今回は私が奨励会時代に400局超務めた記録係の中から、思い出に残る対局を紹介したいと思います。
2003年の5月30日に指されたA級順位戦1回戦、藤井猛九段ー鈴木大介八段戦。
私の原点ともなった対局です。
2003年の3月に三段になった私は、16歳でした。
当時は三段に昇段すると、記録係を務める対戦カードを自ら選べるシステムだったため、手合課に置いてある台帳に、ワクワクしながら名前を書いたのを覚えています。
1998年に竜王を獲得されて三連覇を達成。
A級でもバリバリ戦っていた藤井猛九段に、鈴木大介九段と久保利明九段がB級1組から揃って昇級。
振り飛車御三家が初めてA級に並び立った年で、振り飛車党にとっては特別な年だったと思います。
1999年の藤井ー鈴木のタイトル戦(竜王戦)で振り飛車の戦いに目覚め、その後、直接指導を受けましたので、鈴木九段は私にとっての振り飛車の師匠。
このお二人の先生がA級で初激突したわけですから、私が記録を務めなくてだれがやる?という感じでした。
序盤は当時の最新形である相向飛車から美濃囲いvs矢倉模様の美しい駒組み。
(ぜひ参考にして頂きたい!)
藤井九段が好機を掴んで先攻しますが、鈴木九段もパワフルに反撃して華々しい戦いになりました。
65手目△7五銀と飛車取りに打った手に、▲6五桂と飛車を逃げずに捌き合いを目指す強手や、
88手目の金頭に叩きつける△46角等、豪快な手が連発。両雄の技と気迫が詰まった140手の名局です。
この将棋は派手な手が多いわけですが、大駒をダイナミックに使う今日の戸辺攻めに大きな影響を与えたことは、言うまでもありません。
今思い出しても本当に素晴らしい体験でした。
※丁度この年から名人戦棋譜速報で順位戦がリアルタイムで観戦出来るようになりました。
遡って棋譜が観れますので、ぜひ並べて見て下さい。
余談ですが、同じ日には、佐藤康光棋聖ー渡辺明五段戦(王座戦挑戦者決定T)の激闘が隣の部屋で行われていました。
この将棋の記録係は村山慈明三段。
素晴らしい大熱戦を渡辺五段が勝ち切り、この後、王座戦の挑戦者まで一気に駆け上がりました。
10代の3人で明け方まで騒いだのも良い思い出です。