棋士・女流棋士がふりかえる100年

佐藤 和俊 七段 がふりかえる思い出の一局

望郷の一局

佐藤和俊

七段

私の田舎は両親の出身地の福島で、子供の頃は母方の実家によく遊びにかえったものだ。絵に書いたような田園風景で、古民家の大きな家が今でも思いおこされる。田舎では伯父、伯母に可愛がってもらい、また従兄弟の3人とは歳は10歳以上離れていたがいろいろと遊んでもらった。将棋もルールだけは幼い頃から知っていた私は祖父と指し、負けて泣いていたという話を聞くが、記憶には残っていない。
大人になるにつれ、帰省する回数は減っていったが、私が四段に昇段した際には向こうでもお祝いをしてもらった。また数年前に普及の仕事が福島であった際に、泊まりがけで帰ることになった。久しぶりにゆっくりできるので従兄弟、伯父さんと将棋も指すことになったが、私が本格的に将棋を始めてから初めての機会ではなかったかと思う。伯父は認知症の症状が出ていたのだが、対局ではしっかりした駒組みから、筋の良い指し手には驚かされた。「じいさん(祖父)に鍛えられたからな」と従兄弟の言葉を聞き、祖父の実力はいかほどだったのか、対局を覚えていない幼き日の自分を少し残念に思った。
コロナ禍もあってそれ以来伯父、伯母とは会うことがないまま他界してしまい、楽しかった思い出も色褪せていく。それでも故郷を思うとあの時の一局が心に残っている。