

佐藤紳哉
七段
※2023年10月30日にご寄稿いただきました。
第29期新人王戦トーナメント戦(1997年11月7日)
棋士になって、今年で26年、900局くらい公式戦を戦った。
どの対局も気持ちを込めて指したので、あえて思い出の一局をあげるのは難しい。なので、まあ、デビュー戦を振り返ろう。
1997年11月、20歳だった。
新人王戦で対戦相手は伊奈三段。持ち時間4時間というのが考えるのが好きな私には最高に嬉しかった。3段リーグは90分の持ち時間で、いつも時間に追われて指していた。
4時間あれば、序盤で斬新な構想を編み出し、中終盤もミスのない完ぺきな将棋が指せるのでは、と本気で思っていた。
いざ、対局が始まった。戦形は矢倉だったが、持ち時間を駆使しても斬新な構想は
浮かばなかった。それどころか、戦いが始まる頃には残り10分ほどに。時間はどこに消えたのだ。狐につままれたな気持ちになった。
おまけに、終盤戦、1分将棋の秒読みになると、驚くほどに手が見えない。4時間考えた後だけに脳が疲弊しているのだ。投了一手前は秒読みで飛車を成るのが間に合わず、飛車不成という、恥ずかしい棋譜を残してしまった。
将棋は奥が深く多少時間をかけたところで正しい手が指せるわけではないという教訓を得たほろ苦いデビュー戦だった。