出口若武六段・冨田誠也四段座談会
出口若武
六段
冨田誠也
四段
今回は奨励会同期である出口若武六段と冨田誠也四段で奨励会時代を振り返っていただきました。
―お互いの第一印象
出口:どんな印象やったかな。子どもの時だから…。
冨田:小2かな。
出口:小学校2年生の時の将棋大会だったと思うんですけど。
冨田:初めて会った時対戦はしてないから。その時喋ったかどうかも際どいよね。
出口:最初は特に印象になかった。
冨田:印象になかったはやばいけどな。多分小2で会って、その年の夏休みに遊びに行ってるから。
出口:それは覚えてるねんけど。えーでも(初対面時)将棋やってたんじゃない?やってないんかな。基本的に将棋大会で空いた時間で10秒将棋をして仲良くなったみたいなのが王道だった気がするねんけど。そんなことない?
冨田:将棋大会の空いてる時間に10秒将棋をした記憶はないけどな。
出口:マジで?めっちゃやってて怒られそうになってた気がする。まあでも(冨田くんは)親しみやすそうなイメージはあった。
―初対局~大会の思い出
出口:まあでも(初対局は)大会やんね。道場ではないよな。
冨田:うん。大会。大阪か兵庫の県大会の後に会って、で、両方親が来てて。待ち時間とかに喋ってたとかいうのはあるな。交流とかしようみたいな流れやな。
出口:あ~。でも(自分たちも)仲良かった気がするねんけど。
冨田:仲は良かった。
出口:でも仲が良かった以外は出てこおへんな(笑)
冨田:俺、でもやっぱ活発やなと思ってたけどな。だって運動してたやん。サッカーしてた。
出口:あ~そうそう。サッカーで忙しかった気がする。
冨田:水泳もやってなかった?
出口:水泳もやってたな。習い事多かった。
冨田:そんなイメージある。勉強もしてたやろ。朝ドリルとかやってた。
出口:なんかねやらされて。
冨田:子ども新聞とかね。
出口:よう覚えてるな(笑)まあたしかにお互いの家に行くぐらいにはすぐ仲良くなってたな。
冨田:印象っていう印象は難しいな。会ったとき低学年やからな。
出口:自分がなに考えてたかすらほんとに覚えてない。
冨田:奨励会入ったときも変わらないよね。別に。印象は。
出口:そうやね。奨励会入った時も、よく喋ってよく怒られてた気がする(笑)
冨田:うん(笑)うるさかったよな。
出口:うん、うるさかった。お互い結構うるさい。
冨田:俺静かやったで。
出口:あぁそうやっけ(笑)
冨田:(笑)。でも今は逆じゃない?
出口:たしかに。よく喋って盛り上げ上手。
冨田:よく言えばね。
出口:(笑)
冨田:大人の人には未だに、冨田くんは礼儀正しくて、出口くんはやんちゃ坊主だったみたいな。
出口:そんな感じでしたね。
冨田:俺は普通にしてても(出口くんが)うるさいから、優等生っぽく見える。
出口:(笑)。たしかに優等生みたいなイメージはあったな。その年代の騒ぐ子どもたちに比べたら、ちょっとおとなしい印象だった。もっと喋る人が多かったような気はします。
冨田:悪ガキが多かったか。
出口:うん。悪ガキっていったら怒られるか(笑)
冨田:ああ、あれ覚えてるわ。小学生名人戦のときに慰めてくれた。
出口:ええっ。ああ(笑)
冨田:小学生名人戦の西日本大会で、古森(悠太)くんに負けたんですよ。自分兵庫代表で、古森くん大阪代表で。その時って多分、序列で言ったら、若武、俺、古森、っていう。小学生の体感は。で、古森には負けないと思ってたら、筋違い角して負けて。
出口:(笑)そんなことやってたっけ。
冨田:うん。相振りするのビビッて。お互い振り飛車党やったんで。で、2時間号泣して。慰めに来てくれたのを覚えてる。
出口:「俺(出口くん)に勝ったのに」みたいなこと言ってたよな。
冨田:そう。出口冨田戦っていうのがあって。その勝った時点で、もう東京(決勝)は確定だと思ってて。
出口:(笑)
冨田:今となっては佐々木大地くんとか黒田(尭之)くんとかいたけど、知らんからな、当時。うん…あれは覚えてるな。
出口:慰めてはないけどな。
冨田:うん、慰めてもらったというか、「そんなこと言うなよ」みたいな。
出口:(笑)。まあなんか、子どもの中の強さランキングみたいなものは。
冨田:あったよな。
出口:でも俺は準優勝が多かったんです。あんまり決勝で勝てたことがなくて。
冨田:ああ~。そのイメージはあるな。
出口:準優勝めっちゃ多くて。ここ一番になると冨田のほうが力を出してたような。
冨田:たしかに俺の方が弱かったんだけど、決勝にいけば勝つみたいなのはあったな。
出口:(自分は)いろんな大会で準優勝だった。
冨田:優勝候補じゃない子に負けてて。例えば普通にいけば(出口くんと)準決勝で当たるからこっちが勝てたらでかいと思ってたら、2回戦ぐらいで負けてて、「味ええ」と思って俺が勝ってた記憶はあるけど。意外と大会では当たってないよね。
出口:当たる前に俺がこけてるのか。
―奨励会試験~入会当初
出口:試験な。上がったタイミングは一緒やったんですけど、あまりにも自分が早指しやったんで。多分2局分ぐらいが1局ぐらい(の時間)で終わってた。一瞬で負けて、一瞬で勝って。
冨田:そうやんな。俺まだおったよ、フロアに。でも試験受けた時が一番仲良かったってことはない?今は抜いて。奨励会時代。
出口:まあでも三段の時は。
冨田:まあ三段は別に喋ってたけど。
出口:でもたしかにそうか、小学生ぐらいの時が一番喋ってたかな。
冨田:その時までは若武って呼んでた。前言ったやろ。
出口:あぁ~。
冨田:いつしか名前で呼ばんくなったな。
出口:なんか冨田になってたな。たしかに。
冨田:なぜかなあ。
出口:なぜかな(笑)。全然覚えてないな。うーん。でも奨励会はひたすら5級で止まってたのは覚えてる。昇級(のチャンス)のところでめっちゃ負けてんねん。(成績表を見ながら)すごいなこれ。意味わからんくらい負けて。
冨田:あーたしかに。10回か11回くらい逃してるな。
出口:10回近くぐらいは逃してたけど、基本5連勝して、負けてて。でもその後で連勝して上がれた。荒いよな。
冨田:連勝連敗タイプやったよな。昔から。
出口:最初8連敗したもんな。
冨田:奨励会同期で3連敗スタートなのは我々だけよな。
出口:いっぱい負けてね。
冨田:だけど同期でプロになったのは二人だけだから。やっぱり最初の成績はなんの関係もない。
出口:たしかに(笑)。でもさすがにこんだけ負けたら3連勝するやろと思ったのは覚えてる。
冨田:ああ言ってたな。
出口:でもできんくてちょっとショックを受けたのを覚えてる。
冨田:意味わかんないですけどね。奨励会入って1回も勝ってないのに、そっから3連勝できるという謎の自信を。
出口:たしかに謎の自信は持ってた。
冨田:すごいよな。さすがです。
出口:5連勝、8勝2敗まではすぐいくねんけど、その後がすぐ負けるから。
冨田:あぁ~。
出口:でも勝負強いイメージはあったな、冨田くん。
冨田:たしかに昇級の一番は逃さなかったかな。
出口:大一番強いみたいなイメージはなんとなくあった。(成績表を見ながら)…あっほら、でも冨田に勝ってるで。
冨田:ああそれは覚えてるわ。初対戦。
出口:そうなん。覚えてるん?へえ~すごいな。
冨田:ショックやった。さすがに成績は気にしてたで。
出口:全然気にしてなかったな。
冨田:だって同い年二人しかおらへんかった同期。
出口:なんかね、ライバル意識は強いなって思ってた気がする。
冨田:ああ俺がね。
出口:うん。(自分は)全然なんも気にしてなかったな。
冨田・出口:(笑)
冨田:だから昔さ、関西こども将棋大会の番組があって、「ライバルは誰ですか」に俺は「出口くんです」って言ってんのに、(出口くんは)なんか全然違う人の名前を言ってて。
出口:(笑)
冨田:向こうの人も「えっいやいやライバル関係の構図じゃなかったん」みたいになって。
出口:全然ライバルとかで考えてなくて。まあ将棋指してくれる人、みたいな感じで言ってて。
冨田:(笑)。いや同い年は意識するけどね、やっぱり。だから、俺最初3連敗したけど1人じゃないから安心感あったもん。
出口:全然覚えてない。いやーたしかに最初よう負けたな。
―奨励会時代で印象に残っている対局
出口:四段に上がった将棋。
冨田:うん、俺はさすがに四段に上がった将棋。(成績表を見ながら)ああこれ、出口冨田戦めっちゃ熱かった。俺これ勝ってたら(上がってた)。10-4で出口戦を迎えてるもん。
出口:おおー。
冨田:俺この日連勝してたら昇段やったんや。
出口:へえー。
冨田:えっだからいつからあれ言ってたん。
出口:1月26日が最後だから多分そのときに言ってるんじゃない。
冨田:4月からの三段リーグに間に合わすためには、残り10局ぐらいしかなくて、残り10局やったら12勝4敗じゃ間に合わないんで。「そろそろ本気出すか」みたいに言いだしたんですよね。
出口:(笑)
冨田:そろそろ本気出すかって、あなた無理でしょみたいな(笑)
出口:(笑)
冨田:そしたらそっからほんまに8連勝して。この人やっぱ本気出したら違うなと。
出口:最初から本気出せと。
冨田:(笑)。でもだから、最後4連勝せなあかんなと思ったもん。
出口:俺最後すごいよ、8連勝して負けて負けて負けて、また8連勝してる。本気出したんやな。
冨田:うん、本気出した。本気出すかの一言でそんな勝てんのすごい。
出口:いやー(笑)
冨田:えっ俺なんかめっちゃ痛いとこで負けてんな。4連勝して出口戦負けて3連勝してる。
出口:ああー。じゃあちょうど(笑)
冨田:俺最後14勝5敗やもん。
出口:俺19勝3敗とかや最後。上がった時。そんな上がり方してんねんな。
冨田:ああ、そうか、だから、二段昇段時から間に合わすには。
出口:それしかなかったんやな。
冨田:すごいなそれで。いやあれは印象深いな。「本気出すか」は。
出口:いや言ってるだけやけどな。最後なんか調子よかったな。この辺から戦法を一本に絞った気がする俺。やっぱりいろいろたくさんの戦法をやってたんですけど。一個に絞ったら成績がまとまった印象はあるな。(成績表を見ながら)しかしよく負けてるな。すごい負けてんねや。めっちゃおもろい。
冨田:これって何勝何敗ぐらいなんやろな。(奨励会の)自分の通算。
出口:えーどうなんやろ。めっちゃおもろくない?これ。こっちめっちゃ〇なのにこっちめっちゃ×なんだけど。
冨田:ほんとやな。級一緒やな。あ、だから、級上がりたてなんちゃう。
出口:あ、上がってほっとしてんねんな。それで負けて。覚えてるのが、昇級の一番で、もうなんでも勝ちやって。駒とって必至をかけるか、かっこつけて駒とらずに必至をかけるかで、俺は何を思ったか駒をとらずにやったらさ、角のラインがあって、すっぽ抜かれて負けた。兄弟子の人に怒られたというか、「それはない、それだけはない」みたいな。
冨田:(笑)。もったいないな。で、時間は山ほど残ってるんやろ。
出口:山ほど残ってる(笑)
冨田:確認っていう作業をしてないからな。
出口:それだけはめっちゃ覚えてるわなんか。「絶対駒はとれ」みたいな。
冨田:当たり前や(笑)
出口:言われて(笑)そっからちょっと駒とるの気にするようになったな。
冨田:そうか。
出口:あんま駒とるの好きじゃなかったもん昔。
冨田:なんで?え?
出口:いや、なんでやろな。詰将棋のやりすぎやろな。
冨田:ああー。
出口:捨てたほうがかっこいいと思ってたから。とらずに勝てるならとらずに勝っててん。
冨田:へえー。不思議や子やな。とれるならとったほうが。
出口:そう(笑)いかにとらずに寄せるかみたいにしてた気がする。
冨田:なんか別のゲームしてる。美学を求めてる(笑)
出口:でもそれをやって、やらかして負けてからちゃんととるようになったのを覚えてる。でもふつうに駒とるのが好きな人は多いよね。
冨田:それは多いやろ。
―三段リーグ時代について
出口:一番苦労したもんね。
冨田:苦労したな。
出口:(冨田くんが)護摩行に行ったのはほんまに覚えてる。
冨田:いやーそれ前も言ってたな。
出口:手がめちゃくちゃ火傷して腫れて。
冨田:あれだって、三段リーグの中盤ぐらい?
出口:あとなんか赤い靴下やったのを覚えてる。
冨田:ああー。
出口:奨励会時代の冨田は赤い靴下で、それがトレードマークみたいな。
冨田:あれ赤い服やってん。昔は。
出口:ああー子どもの頃は赤い服が勝負服やったけど、スーツとか着るようになったから、赤い靴下になった。
冨田:奨励会で小学生ぐらいの時はちゃんとカチッとしたシャツ着てた、多分。制服ないから。でも2級か1級くらいになったらある程度は自由を許されてて。
出口:ああ、上やと。級位者の中で上やと、まあちょっとはいいよと。
冨田:まあワイシャツで襟ついてたらいいよで、中に赤いシャツを着ててんずっと。ある時、対戦相手が、上着を脱いだら真っ赤っかのシャツやってん。
出口:(笑)
冨田:で、俺も赤いシャツを着てて、終わった後に幹事の先生に呼ばれて、「いやちょっと赤すぎるから…ちゃんとした服にしなさい」って言われて。
出口:(笑)へえー。
冨田:当時1級ぐらいやったから、そっから(赤いシャツはやめて)ジャケットみたいのをちゃんと羽織るようになった。
出口:ああそれがきっかけ。
冨田:で、どっかで赤を残しときたいから。
出口:靴下を赤に(笑)
冨田:そう(笑)
出口:めっちゃ靴下赤くて。なんか勝負服、勝負靴下なんやろなって思ってましたけど。
冨田:それはそうかもしれんな。
出口:たしかに気合がよく入ってたイメージはあるな。
冨田:ああ、ファイター体やったな。
出口:盤面に気合が乗っていくイメージがあった。長い将棋とか結構強いみたいな。
冨田:ああー。
出口:長く最後まで戦うみたいな。そんなイメージあったな。奨励会三段の時は。井田くんと冨田は盤面に気合が乗るから。
冨田:あーたしかに。そうね。
出口:井田くんも結構、気合型やったね。
冨田:うん。井田は俺よりも気合型やったと思うけどな。
出口:でもやっぱり三段リーグはそういう気合が乗る場で。全然違った。
冨田:そういう意味では(出口くんは)全然気合乗ってなかったよな(笑)見たことない。気合を乗せてやってるの。
出口:(笑)。びっくりしてた、いつも。
冨田:びっくりしてた(笑)
出口:対局の時。「おおお」みたいな。
冨田:だって三段リーグになったらさ、どこの席でやりたいとかあるやん。(出口くんは)拘りとかない。
出口:まあ…そやね。ないな。そんな揉め事にならんかったらいいなと。
冨田:揉め事に(笑)だって扇子も使わんやん。
出口:扇子ね。でも最近ね、たまに使うけど。
冨田:ああー今はな。
出口:でも今でもそんなには使わへんか。たしかに。
冨田:気合型の人は扇子使うよね。
出口:扇子バチバチしてる人多いよな。
冨田:(自分で自分の)頭どついてたりするし。こうパーンってやって。
出口:うん。でも三段リーグってすごい場所だなと思ってた気がする。三段リーグ面白かったな。
冨田:面白くはないけどなあ。でも三段リーグさ、二人とも17で入ってさ、まあ流石にプロは堅いなって思ってたやろ?
出口:たしかに。まあその上がる期の調子の良さもあるしな。だって俺めっちゃ勝って(三段に)上がってるから。そういうのは思ってた気がする。勢いで上がれるかと思ったらその一番最初で勢いが止まって。これが三段リーグかと思った気がする。ちょっと珍しく呆然としたもんな。
冨田:あーそうやったん。
出口:印象に残ってるな。え、なんかないん、三段で印象に残ってる対局。
冨田:でもそれだと昇段の一局じゃない?でも、出口黒田が(四段に)上がった時は結構覚えてるけどな。
出口:ああー。
冨田:その時なんか複雑やったな。
出口:まあねえ、確かにねえ。
冨田:別に、仲いいから嬉しいけど、取り残されちゃったな感もあったから。
出口:でもそういうのはあるよな、なんか。嬉しいけど取り残されてる感みたいな。
冨田:その前に池永さんも上がって。
出口:上がってる上がってる。古森も上がってるでしょ。
冨田:古森も上がってる。で、出口黒田が上がった時は、だって俺、ショックで夜行バスで帰ったもん。
出口:えっ。
冨田:初めて。ショックというか、来期頑張らなあかんなって思いで。
出口:ああー。気合入れるために。でもたしかに気合よく入ってるイメージはあったな。
冨田:意味なかったけどなあ。護摩行に行ったのは…その前だなあ。21ぐらいのときかもしれん。
出口:なんか護摩行ブームみたいなの当時あったよね?冨田が行って護摩行広めたと俺は勝手に思ってて。
冨田:(笑)。その前に行ってた人もいたけどな。
出口:冨田が火傷するぐらい頑張ったみたいな。ここで火傷するぐらいの気合をもって三段リーグに挑んでるっていうのは、周りに伝わって、当時のやっぱりメンタルを強くしたいっていう三段とか、その後輩たちは護摩行に行くような。
冨田:でも俺の後行ったのって井田以外誰かいる?
出口:えっほんまに?もっとおらへんかった?絶対おるって。
冨田:俺より前には行ってた人いた。(自分が)行った後は井田だけやろ。隠れて行ってたら知らんけど。
出口:隠れて行ってる人がいるかも。
冨田:いるんかな。
出口:でもやっぱり気合が入ってるなっていうのは、ほんとにすごいなっていう。
冨田:(笑)。それでいうと真逆やったもんな。気合を見せない感じやった。
出口:気合を見せない(笑)
冨田:ゼロではないやん。さすがに。
出口:まあまあたしかに。勝ちたいとは思うから。自分はなんかもう、昔から昇級の一番とかでも勝ってなかったから。あんまり気合入れていくことないやんみたいななのがあった。
冨田:ああー。
出口:やっぱり子どもの頃に、あんまり気合を入れて勝ったことがなかったから、自然とまあ、自然体でっていうのを意識するようにはなったかな。
冨田:勝っても負けても顔でわからへんかったもんな。
出口:それはよく言われてた。「めっちゃ楽しそうにしてるから勝ったのかと思った」って(笑)
冨田:負けた時のほうが感想戦どっちかというと喋ってるイメージがあったからな。
出口:たしかにな。負けた時のほうが楽しそうっていうのもおかしいけどな。
冨田:(笑)。大抵の人はこんな感じで(落ち込んで対局室から)降りてくるから、あー負けたんやなあって。
出口:あんまりなんも考えずに将棋やってた気がする。
―四段昇段の日について
出口:いやでも負けて上がってるからな。これまたな。なんか申し訳ないですけど。最終日連敗して昇段して。なんか上がった気はしなかったですね。あー負けた、みたいな感じで。師匠には「それはあかん」みたいな感じで。
冨田:あー。
―最終日前に昇段が決まっていた?
出口:いや、決まってなくて、競争相手が負けたから昇段した。最終日まで決まってなかったと思う。
冨田:うん、そうね。ほぼ絶対昇段みたいな成績ではあったよ。
出口:いやでもさすがに、その時は勝たな上がれへんとは思ってた。結構周りの人もめちゃくちゃ勢いよく勝ち上がってて。結果、悪い将棋をめちゃくちゃ粘って、終わったら昇段決まってたみたいな。1局目で。印象に残ってる。
冨田:あー昇段の日は…。
出口:勝ってなかった?
冨田:勝った勝った。連勝昇段。
出口:(再度リーグ表を見ながら)あっここの時か。すごいね最後めっちゃ勝って。
冨田:古賀くんに負けて諦めてたんよ。古賀くんの時直対やってん。
出口:ああー。
冨田:それ負けて、星が差ついて、14-4は頭ハネかと思って、全部勝ったとしても。
出口:たしかにこのぐらいの期って結構、勝つ人は勝つみたいな期やった気がするな。
冨田:まあ、どうなんかな。一桁の順位じゃないほうが上がりやすいねん多分。
出口:(笑)そうなの?
冨田:順位下のやつってあんま準備されへんねん。
出口:ああー、警戒されへん。
冨田:そう。三段リーグは(1日に)2局なんで、どっちを的を絞るかってなった時に。だって俺この期とか、全然的を絞られてない。
出口:でも結構錚々たる面子やな。
冨田:関東に全勝してん、たしか。関東10-0、関西4-4やねん。
出口:なんか期によってはそういうのあったよね。関西の人と当たりたいとか関東の人と当たりたいとか。
冨田:でも俺(昇段した期のリーグで)負けたやつ全員プロになってるな。
出口:強いやん。
冨田:しょうがないなじゃあ。
出口:強かったんや。でもすごいな。
冨田:上野くんとのやつが印象深いわ。今はもう新人王もとって。
出口:そう。あっ俺も昇段した期で上野くんと当たったな。とうとう当たるんやって思った気がする。
冨田:(笑)。このタイミングまだ自力ちゃうからな俺。ラス前やから。
出口:あーそっかそっか。それで自力になって連勝したんか。
冨田:でも上がると思ってなかった。だから上野くんとやるときも、この時からもうだいぶ強いと思ってたから。
出口:たしかに。
冨田:自分が仮にプロになれんくても、上野くんと、自分がこう(昇段間近の)熱い状況で、真剣勝負できるのは人生の記念になるなと思って。
出口:すごいな。
冨田:上野くんはこの時そんな(昇段)争いしてないけど。
出口:思ってたんや。
冨田:思ってた思ってた。この時俺、1回もやったことない作戦やってるもん、上野戦。
出口:へえー。
冨田:記念にやろうと。めっちゃ結構長い将棋で、激戦に勝って。
出口:たしかに長い将棋を勝ち上がってたイメージはある。
冨田:相手が90分使ったら、全勝って時期が一時期あった。
出口:えっマジ!?そんなことある?
冨田:あっそれでいうと、糸谷さんが前の(同期対談の)時に、三段リーグで1日4局指したみたいな。
出口:それすごいなあ。
冨田:俺もやったことある。千日手、千日手で4局。俺千日手めっちゃ多かった。
出口:ええー。たしかに長期戦の冨田みたいなイメージはあった。
冨田:警戒してめっちゃ早く指す子とかおったな。
出口:へえー。時間残そうみたいな。
冨田:そう。長引いたら力発揮されちゃうから。これ、リーグ最終局は覚えてるで。最終日の1局目に奇跡の大逆転勝ちして。次勝ったら自分が昇段ってわかってるから。
出口:ああーそうかそうか。
冨田:居飛車やってんけどな。
出口:居飛車やったん。へえー。
冨田:必至がかかったら勝ちで、向こう秒読みで、俺30分残しなんよ。で必至が見えて、昇段の記でも書いたけど、トイレ行ったら(自分が)泣いてた。
出口:へえー!すごいな。なんか感動する。
冨田:(笑)。そう、だから、勝ちよなみたいな。
出口:へえー。
冨田:のは覚えてるな。
出口:すごい精神状態で行っててんな三段リーグ。
冨田:自力やけどあんま上がると思ってなかった。
出口:話聞いてる感じ他人感するもん。あんまり自分で昇段したみたいな感じしてない。
冨田:ああ俺?プロになりたいというか、プロにならないと俺は将棋やめるつもりやったから。
出口:ああー。
冨田:だから、プロになってまだ将棋ができるっていう喜びが。
出口:強かった。
冨田:強かった。
出口:いやすごいね。
冨田:それでもさ、井田とか(徳田)拳士がさ、たしか終わるの早かってん。
出口:うん。二人とも勝ってるな。
冨田:ふたりともめっちゃ早くて、こうなんか近くで見てて。応援してくれてるのかなっていうのがなんか嬉しかった。
出口:ああ、ちゃんと兄弟子の戦いぶりをみて。
冨田:だってその次の期に井田が上がって。拳士もすぐ上がって。
出口:たしかにここから小林門下めちゃくちゃ増えて。流れを作ったのか。
冨田:(前の対談で)船江さんも言ってたけど俺も師匠に電話したら泣いてたしな。
出口:へえー。
冨田:泣いてた?師匠。
出口:いや…多分怒られた記憶しかないから泣いてない(笑)
冨田:(笑)
出口:最終日連敗するやつがおるかな。聞いたことない。
冨田:まあ、上がった一局は印象に残ってるな。
出口:たしかに上がった一局は残ってる。全然そんなに勝ちとかは意識してないからあれだけど。
冨田:そうか。
出口:結果的に徳田君に勝った将棋が昇級やねん。
冨田:ああー。
出口:勝った一番で言うと。だからその将棋も印象には残ってる。やっぱり。
冨田:あの時めっちゃ強かったしな。さすがに力が抜けてるなと思ってたもん。研究にハマっても、そっからの終盤力で勝つから。どうなってんねんみたいな。
出口:楽しくやってたら勝ってたみたいなのがすごい多くて。あんまプレッシャーとか感じなかった。でも昇級がかかると、プレッシャーかかった気がする。
冨田:(笑)。だってあんだけ強かったのに、最終日連敗。
出口:(笑)。しかもなんもいいとこなく負けたからな。
冨田・出口:(笑)
冨田:井上先生がさ昔、二人ともなかなか上がらへんからさ、どっちかが上がったらどっちもプロになるのにな、って言ってたな。
出口:あーでも俺奨励会に入ったときは、冨田くんについていくようにって言われたで。
冨田:ああー。それは知らんかったけど。俺自分のこと弱いと思ってたから。
出口:そうなんや、って俺も思ったけど。
冨田:(笑)
出口:こんなこと言ったら怒られるけど。あっ、そうかって思って。実際、冨田がすごい上に上がっていて、俺は下でめちゃめちゃ苦労したから。これはやっぱりついていかなあかんかったんやって思ったし、師匠すげぇと思った気がする。
冨田:出口、黒田って上がって、その次の期に上がれんかった時は結構やばいと思ってた。
出口:ああー。
冨田:もうだってこうさ、長いこと三段リーグにいて、勝ち越してて。上がるには、なんかこう、何かいるやん。別の。将棋に対する以外の、奮起する・・・。
出口:たしかに、あと掴み取るためにはなんかが必要。何かを変えていかないといけないかなっていう。まあ変えていかんでも勝つ人は勝つけど。そういうのはあった気がするな。自分は戦型を変えたけど。
冨田:意味ないこといっぱいしたな、三段リーグ。
出口:まあ意味ないというか、ちょっとたしかにお互い足りへん部分はいっぱいあったんやろなっていう気はするけど。
冨田:え、何年いたっけ?三段リーグ。
出口:12期おったわ。17から23だから、6年。
冨田:俺が15期やから・・・1年半(後に昇段)。
出口:そうやな、3期分か。
冨田:その1年半、なんかえらい遠く感じたな。
出口:あー。どうなるやろうと思って見てたような気がする。大丈夫かなって。
冨田:研究会とか気まずかったしな。
出口:あー確かに、あれはちょっと気まずくなったな。確かに。
冨田:俺昼ご飯のとき、口数少なかったもん。
出口:珍しくね。
冨田:うん…。
出口:確かにちょっと気遣うよな、なんか。そういうのはありますね。
冨田:あるな。あ!俺あれ好きやで。あの、俺が上がったときの(出口くんの)ツイート。
出口:なんかツイートしたよね。俺感慨深くなって夜中にツイートした。
冨田:うん。西遊棋で。池永氏もあれは上がった日のコメントで一番いいって。
出口:なんかね昔、三段でお互いちょっと特訓しようやみたいな感じで、冨田が一人暮らししてたから俺遊びに行っててんな。
冨田:うん。
出口:で、遊びに行って1日将棋して泊まって帰る、っていうのがあったんですけど、その時に、どうやったらプロになれるやろ、みたいなことを二人で話してて。香車一枚強くなったら流石にいけるやろみたいな。
冨田:あーそうそう、そうやったな。
出口:香車一枚っていうのは、今考えたらさ、結構強くならなあかんよな?
冨田:強くならなあかん。
出口:だって奨励会で2階級差なんですよ、よく考えたら。
冨田:単純に五段ではないからな、三段リーグ換算でいくと。
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二十歳頃、立命館で冨田とVSをして遅くなり冨田邸に泊まりました。
専らの話題はどうしたら昇段できるかでした。
結論は一ヶ月合宿をして香一枚強くなる。
電気を消してから出された詰将棋に夢中で合宿は有耶無耶に。
我々は香一枚強くなるのに5年程かかりましたね。ここからまた頑張ります
(出口)
午前0:30 · 2020年9月27日
※https://twitter.com/kansaishogi/status/1309877921549443073
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冨田:あーこれです、これです。
出口:香車1枚って結構簡単に強くなれるもんやと思っててんけど。今冷静に考えたら2階級上がらなあかんってことやろ?ようあれ香車1枚って言ったなぁと思って。
冨田:いやでもさ、香車1枚強くなったんちゃう?
出口:まぁ1枚くらいは…。
冨田:あの頃に比べたら。だってタイトルも挑戦してるし。
出口:たしかにちょっとだけは。
冨田:でもさ、そう!このツイートの前に昇段おめでとう(の連絡)は来てるわけよ。
出口:うん。
冨田:それがおめでとう、の一言くらいやってん。
出口:あ、そう!?
冨田:うん。そっけな!と思った。
出口:(笑)。お祝いし慣れてないだけやで。
冨田:いやいやいや。で、それでこのツイートを見て、逆に感動した。
出口:逆に感動!?おめでとうしか言わない人が言うと(笑)
冨田:そうそうそう。それは覚えてるな。
出口:いや、良かったってすごい思った気がするわあの時。
冨田:確かにそれ嬉しかったですね。そのツイート。ああそんなこともあったなぁと思ったもん俺。香1枚強くなる。
出口:ちょっと感慨深かった気がする。
―記録係について
冨田:何局くらいとったんやろな俺ら。
出口:結構とってるとは思うけど。
冨田:100はとってる?
出口:わからん。100はいってるんちゃう?
冨田:昔ってさ、その残り時間とかも常に考えてたやん。今はタブレットにすぐ出るからいいけど、残りは?って聞かれたときにちゃんと計算して言わないと。あれで大幅に間違う子とかたまにおってん。
出口:ああー。
冨田:10分、20分間違って、え!?みたいになるから。
出口:急に150分とかを2時間半に変えられへんくて。
冨田:そうそうそう。
出口:それはあったな。
冨田:あったあった。それで緊張感はあったよね。読みに全集中はできひんやん。今の子って読みに全集中できるやん。すぐ答えられるから。
出口:読んで手元が疎かになるみたいな。
冨田:うん。タイトル戦とかとったことある?
出口:いや絶対にとらへんようにしてた。
冨田:あ、そうなん?
出口:うん。迷惑かけたら嫌やなって。
冨田:(笑)。俺タイトル戦(の番勝負)、8タイトル記録取ってるで多分。
出口:すごい。
冨田:棋士で、棋士というか、全奨励会の中で俺しかいないと思ってる。少し前まで叡王戦はなかった。俺以降だとおらんのちゃうかな。
出口:たしかに叡王戦ありなら難しいな。相当珍しい。
―奨励会時代を振り返って思うこと
出口:もっとちゃんと考えてやっとけばよかったっていうのはあるな。こういうの聞いてると。なんか自分があまりにも考えずにやってたなって。
冨田:良いか悪いか微妙やけどな。仮にさ、奨励会もしやり直せるならどのタイミングからやり直したい?
出口:そんなに…。
冨田:やり直しゼロ?
出口:いややり直しゼロとは言わんと思うけど…でもちゃんと時間使うようになったの棋士になってからやからな。もうちょっと時間使っとけばよかったなっていうのは確かに思いはするけど、あの頃の俺に言ってもそんな聞くことはないやろな、みたいな。
冨田:(笑)
出口:もっと時間使えってなんや?って。もし変えるとしたら三段からかなやっぱり。自分も冨田もそうだろうけど、一番苦労したって言ったら三段リーグだからその頃からかなあ。それか6級からでも別に全然いいっちゃいいけど。
冨田:それはそう。俺も三段。
出口:6級からか三段からか。その間からとかは特にない。
冨田:まあたしかに。そこで別にやり直したいとかはない。変化なさそうやし。
出口:ね。
冨田:奨励会振り返って・・・もうちょっと真面目にやったほうがよかったかな。
出口:まあね。たしかにそれはある。もっと気合を入れてやるべきだった。
冨田:でも難しいよね。真面目にやってたらもうちょっと早くプロになれてたかは微妙やと思う。
出口:あ~行き詰まるみたいな?
冨田:うん。三段リーグってこう真面目にやってた期が必ず勝つとは限らへんやん。
出口:急に勝ちだすときとかもあるよな。
冨田:そういうこともあるから、難しいっちゃ難しい。
出口:たしかに。
冨田:まぁでも確かに三段リーグはもう一回やり直したいなぁ。17歳の時。
出口:うーん。まぁ強くなるために時間かかったなって感じはするけど。
冨田:香1枚強くなるのにな。
出口:香1枚強くなるのに6年かかってるから。
冨田:まぁでもそんな後悔はないかな。
出口:まぁたしかに。なんやかんや楽しかったっていうのはあるからな。…え、なかった?苦しかった?
冨田:楽しかった思い出は俺はそんなない。
出口:あ、そうなん?
冨田:奨励会楽しかった思い出はないやろ。
出口:あ、そうなんか。
冨田:楽しんでるな、それで言うと結構こう(出口は)。あんま悲壮感がないというか。悲観的な感じが。あったとしても・・・
出口:いやでも俺将棋指すの楽しかったからな。別にどの場でも。
冨田:えっ、じゃあ将棋やめたいって思ったことはないん?
出口:ない。
冨田:あ~そうなんや!人生で?
出口:うん。まぁすごい逆転負けしたときとかはたしかにあるかもしれんけど。でも全然ないけどね。
冨田:え~。
出口:え、ある?あるか?
冨田:しょっちゅうやったよ。
出口:しょっちゅう!
冨田:棋士になってからはないけど。さすがに。
出口:あ~そう逆に?そうか、まぁたしかに。
冨田:三段リーグの時はもう。
出口:人生の終わりやみたいな?
冨田:うん、もうやめたいって思ってたな。棋士になったらさ、これからも将棋は続くわけやん。三段リーグは一応限りがあるから。
出口:奨励会終わった後、普通に楽しんで事務所に寄ってたからな。
冨田:いや~。
出口:たしかにもうちょっと真面目に頑張った方が、なんかそういう感じじゃなくて、人生かかってるみたいな。
冨田:いや分からん。それが人に合うかどうかによるから。
出口:まぁね。なんかそういう気概みたいなのはもうちょいあってもよかったな。
冨田:え。じゃあ奨励会をやめたいと思ったこともないん?
出口:やめたいと思ったことない。
冨田:へ~。すごいな。
出口:そう?
冨田:じゃあさ、自分がプロになれへんかもって思ったときある?
出口:いやない。ないっていうと怒られるけど。でも親からは結構言われたよ?やっぱり。あまりにも三段が長いからほんまになれるんか、みたいな感じで結構言われたりはしたけど。自分の中ではまあいけるやろとは思ってた。無駄な自信があった。
冨田:へ~!
出口:全然強くはないけど。無駄な自信だけはめっちゃ持ってた。
冨田:すごいな。
出口:なんかよく分からへん自信持ってて。
冨田:いやそれはめっちゃ大切やと思う。良さですから。いやそれはすごいわ。
出口:将棋指すのやっぱ楽しかったな。
冨田:(やめたいって)しょっちゅう思ってた。
出口:うそ。
冨田:やめたい、奨励会もやし、将棋に対しても。
出口:将棋やめたいって思ってたのすごいなやっぱり。
冨田:えぇ!マジ?
出口:うん。
冨田:これなんかアンケートとってほしい。
出口:あ~。
冨田:誕生日アンケートでやってほしいな。「将棋やめたいと思ったことありますか?」。
出口:やめたいはなくない?別に。例えばもし奨励会通らんかったとしても、まぁ趣味としてくらいなら続ける。
冨田:いや奨励会入会時はね?
出口:もし棋士になれんかったとしてもなにかしらで続けない?
冨田:続けへんよ。
出口:続けるかなぁと思ってる。
冨田:マジ!?
出口:うん。まあそもそも、なれへんと考えたことがあんまりなかったとは思うけど。
冨田:すごいな。
出口:無駄な自信やで。
冨田:いやいやすごいわ。羨ましいわ。
出口:多分あんまりなんも考えてないだけやで。今も変わってないか。
冨田:俺なんて最後勝つときまでプロになると思ってない。
出口:逆にそこまで!?
冨田:いや~。諦めてましたけど。諦めたから上がれた感じやった。
出口:あ~。空っぽになったって感じか。逆によかったんやね。
冨田:そうそう。
出口:たしかに空っぽになるのは大事なんかもね。
冨田:いや~すごいね。それも新たな発見やった。
出口:ほんまなんも考えんと将棋指してた。いやでも、逆転負けしたときはな、やばいなと思ったけど。
冨田:あ、でもたしかにあんま(負けて)キレてるの見たことないもんな。マジで怒ったこととかあるん?喜怒哀楽そんなないやろ?
出口:(笑)。たしかに。
冨田:ほぼ喜。喜、楽か。
出口:いや怒ってる時もたまにある。
冨田:いやあんま怒ってるの見たことない。
出口:たしかにキレることはまずないやろな。なんか三段リーグ…すごい場所やなっていつも思ってた。
出口:なんか人と人のぶつかり合いが一番表に出てくる場所というか。
冨田:棋士ってあんな感じよな。
出口:うん、やっぱりね。すごかったな。
―お互いの今の印象
出口:今の印象はやっぱり喋るのが上手やなっていうか、こんなに喋れる棋士はおらへんちゃうかな。
冨田:いやそれは言い過ぎ。
出口:(笑)。でも(冨田くんの)将棋自体も、昔は長い将棋が強いイメージでしたけど、今は研究がしっかりしてて、早い展開に強い。研究を活かした速攻みたいなことやってるし、やっぱり強くなっていってる。なんか上から目線で怒られそうやな。
冨田:いやいや大丈夫。
出口:強くなったっていうのを感じるし。やっぱり学ぶべきところが多いかな、というのは感じますね。多分将棋も結構正反対まではいかないですけど、対称的な部分はあったんで。そうですね、自分が今ちょっとあまり将棋勝ってないので、やっぱりそういうところはちゃんと自分のものにしていかないとなというのはありますね。・・・今の印象か、ちょっとちゃう話になったか。
冨田:いやいやいや。
出口:将棋の印象みたいな感じになりましたけど、人柄は変わってないというか、まあ昔からこんな感じでよく喋ってたんで。今日もすごい楽しかったです。
冨田:よかったです。・・・難しいな。今の印象、まあ確かに自分も子どもの時と変わってないというか、話聞いてても思いましたけどなんか自分は、すごい優しさがある人だなと感じるんですよね。
出口:(笑)
冨田:あんまり怒ったりしないとかもそうですし、こう割と基本よく笑ってくれるじゃないですか。笑ってくれるから自分も話しやすいし。なんか、んー、よくも悪くも勝負師ぽくないなと。
出口:(笑)
冨田:自分としては昔から知ってるし、友達みたいな感覚で話せる。まぁそうですね、8歳くらいから出会って、今もう20年くらいかじゃあ。
出口:すごいね。
冨田:20年っていうのはすごい付き合いだし、今後も続いていくっていうのは感慨深いものだなと思いますし。将棋のほうでいうと、まあやっぱりそうですね。本人は、今はちょっと体調があれなんかな。
出口:いやいやいや。
冨田:調子がよくないみたいですけど、やっぱり自分の中ですごいなと思ったのはタイトル挑戦したのは、結構なんか、自分と比較して大きく離されてしまったというか。立場が違うって言ったらあれですけど、すごい上の棋士になって堂々と対局してるのを見ると、すごいなと思いますね。やっぱりこうあらゆる棋戦で上位に行ってますし、上の棋士とあたってもこう普通に当たり前のように勝つのは、うん。本当にすごいなと。昔から変わらずやっぱり終盤力がすごい強いと思うので、そういうのは自分も、なかなか学んで身に着けるものではないですけど、そういうのは身に着けていきたいなと思うところですね。
出口:順位戦頑張ってください。俺も頑張る。
冨田:(笑)。頑張ります。
出口:いや、すごい順位戦が良かった。やっぱり今期は気合入ってるなと思ったんで。
冨田:それでいうとABEMAの活躍がすごいですかね。ここ最近だと。チーム稲葉で優勝したし。
出口:まぁまぁでも服部くんと稲葉さんがおったからね。
冨田:いやいやいや、今年で言うと藤井八冠に勝ったのはやっぱりすごいことだなというか。それがやっぱ出口くんを象徴する将棋というか、終盤競り勝ったみたいな将棋なんで、そういう終盤、もちろん序中盤もそうですけど、終盤の部分はほんまにトップ棋士と遜色ないというか、昔から変わらずすごいなと。同級生として近い存在にいるのはこう、どこまでいっても自分は頑張らないといけないと思わせてくれる存在なんで、それはありがたいなと思いますね。もう一つ棋士になって思ったのは、他でも言ったことあるんですけど、奨励会入った頃とか、子どもの時は自分はやっぱ同じ兵庫県出身で同い年でっていうのでライバルと思ってこうやってきたんですけど。勿論仲は良いですけど、今の自分の実績とか実力では出口くんのことライバルだとは言えないと思うので。またライバルって言えるくらい自分も頑張らないとなと。
出口:まあそんな実力自体に差があるとかではないとは思うんですけど、たまたま自分も結果が出たみたいなところはあったと思うので、そのたまたま出た結果を実力にしていかないといけないなと思ってるんで。やっぱり冨田くんも頑張ってるので、同じように調子を上げて二人で将棋界をちょっと盛り上げたり、ちょっと名前が有名になるようなことをできたらなと思ってます。
冨田:良い感じでまとまりましたね。
出口:なんとかな。
冨田・出口:(笑)
冨田:そういえば今日自分がつけてるネクタイって、自分が(四段に)上がった時に出口くんと(北村)桂香ちゃんと古森くんの。
出口:3人で(贈った)。勝負カラーが赤のイメージだったんですよ。奨励会時代から。で、なんか最近青いネクタイつけてるのを知らんくて、青というか水色くらいでそんな被ってなさそうで、まあ新たな勝負カラーとして取り入れてもらおうかなと思って贈りました。
冨田:嬉しかったです。
出口:赤にしようかなと思ったけど、更に赤が強くなってもちょっと困るやろと思って水色くらいで。でもそれであげたら、最近青つけてるでって。え、赤やろって言ったら最近は青もつけてるって。
冨田:はい。
出口:それめっちゃ覚えてる。あんまり持ってないであろうような色でって、結構考えて選んだ気がする。
冨田:その時に出口くんがごちそうしてくれたんですけど、二人でご飯なんて何年ぶりレベルやで。それこそ、俺んちに泊まりに来たぐらい。
出口:あっ、そんなに!?
冨田:そんなレベルよだって。
出口:そんなレベルやったら5、6年くらいってこと?6、7年くらいか。
冨田:二人でってなると。何人かとかはあるけど。
出口:あ、そうやね。二人で飯行くのはか。じゃあまた飯でも行く?あとで。
冨田:たしかに。
出口:久しぶりに。
短い時間でもお二人の仲の良さや過ごしてきた時間の長さがよく伝わる座談会となりました。ありがとうございました。