棋士・女流棋士がふりかえる100年

久保利明九段「現会館の思い出やエピソード」

久保利明

九段

私が現関西将棋会館に初めて行ったのは、小4で研修会に入ったときだから、今からもう40年近く前のことになる。会館ができて数年しか経っていないときだったので、すごく立派な建物だな、と子供心に思ったことを覚えている。覚えているといえば、研修会の時の話がある。と言っても自分の対局ではなく、対局を観戦した時のこと。当時、「将棋世界」の企画で、プロになられたばかりの新鋭対局、阿部ー羽生戦というのが御上段で行われていたのを、研修会員の私達10数人で見学させてもらえることになった。今ほど情報もなく、研修会に入りたての自分には、まだプロがどんな存在なのかもよくわからず、御上段に向かった。ピリッとした空気、吐息が聞こえてきそうなくらいの静寂な空間に接し、入ってはいけない場所に入ってしまったような感じがした。今考えると、そこでの経験は大きかったように思う。早いうちにプロとはこういうものなんだ、という経験ができたし、当時の自分は、指している将棋の内容が、まだまだ理解できるレベルに達していないことがわかった。しかし、小学生の時に自分が進む道はこういう場所なんだ、ということがわかったことは大きかった。高槻の新会館は、もちろん楽しみでしかたない。しかし、阪神電車が地上を通っていたころから通いつめた、今の関西会館にも思い入れがある。移転した後も、たまにはホテル阪神のある福島に寄って、散歩でもしてみたいなと思う。