棋士・女流棋士がふりかえる100年

森 雞二 九段 がふりかえる名対局

中原誠-加藤一二三


森 雞二

九段

私が将棋を覚えたのは、16才と遅いのだがその時、棋士の名前と言えば升田幸三しか知らなくて大山康晴十五世名人の名前も知らなかった。もちろん加藤一二三九段の名前も知らなくて加藤九段の名前を知ったのは17才で奨励会にやっと5級で入った時で、その時すでに加藤九段は23才でA級八段だった。
14才で四段になり20才で名人戦に挑戦した神武以来の天才と呼ばれていたのも、その時に知った。もっと早くに名人になると思われていたのだが第19期と32期に挑戦して以来名人戦に登場していなかった。名人になるというのが、棋士の夢であり悲願でもある。私も57期に名人戦で中原誠名人に挑戦したが2勝4敗1千日手で敗れ、夢は叶わなかった。
さて、この一局は加藤一二三九段が中原誠名人を負かして名人を獲得し、悲願の名人となった一局である。私も控え室で見ていて、ドキドキしていた。
加藤一二三九段といえば、クリスチャンとしても有名で、私が立会などで地方に行った時、加藤九段は休憩時間に近くの教会に出かけて賛美歌を歌っていた。この対局の時もトイレからかすかに賛美歌が聞こえていた。
将棋は相矢倉の熱戦だったが、最終手の3一銀を指す時に加藤九段の指先がプルプルと震えていたのが印象的だった。