棋士・女流棋士がふりかえる100年

野田澤彩乃女流初段「現会館の思い出やエピソード」

野田澤彩乃

女流初段

 青い空に白い雲。
 灰色の空に、雨が降ったり上がったり。
 次の一手を考える間に、流れる雲を眺め、ざぁざぁ降り始めた雨に、今日傘忘れた、と心配をする。
 最近、東京・将棋会館で記録係のとき、対局室でそんな風に過ごす時間が増えた。幾度と巡る季節を過ごしてきたこの場所で、どれくらいの時間を過ごしただろう。そんな思い出詰まる部屋なのに、こんなによくよく見るのはここ最近で、同じ部屋なのに景色が違う。他にも、掛け軸や花瓶、たまに生け花も飾られている。何度見ても、またぼんやりと見る。見ていると、今度わたしも揮毫してみようかなとか、表装の柄に見入ってしまったりと、盤上の激しさとは真逆に、のんびりしてしまう時間もある。
 窓からは、空だけではなく、目の前にある鳩森八幡神社の木々、ビル街、最近では富士山に見えるビルを見つけたりと、移り行く景色が見える。
 現将棋会館での思い出を探すと、対局室が一番に出てくる。対局、記録係、イベント、そして、将棋番組の撮影。楽しい思い出もあるけれど、絞り出すような、悪戦苦闘、四苦八苦、悶絶が詰まった部屋。
 二階の将棋道場。小学生のときに初めて足を踏み入れてから、対局、指導対局、教室、イベント、部活動。二階にも色々な思い出がある。三階の事務局でも、あんなことやこんなこと。イベント準備や役員時代の会議での喜怒哀楽。改めて思い返すと、とてもたくさんの物が詰まっている。わたしの人生の大半がここにある。と、今回の移転がなかったらしなかったかもしれない思い出探しに、感慨深くなる。先日なんて、将棋会館の入口にある、画家の梅原龍三郎書の「将棋會館」の看板と写真を撮りながら、この看板はどうなるのだろうと、何度思ったかしれないことを考える。
 関西将棋会館にも、対局で数回行ったことはあるが、ずっと緊張していた気がする。初関西将棋会館は、前夜に行ったら入口がわからなくて、目の前を通過してずいぶん歩いた。他にも対局室の造りを聞いたり、数回ながら思い出深い。
 そんな東西の将棋会館が、移転する。そうか……。新将棋会館のイメージ図が目に入ってきたりしている昨今、感慨と期待、寂しさと楽しみが混在する。