棋士・女流棋士がふりかえる100年

野田澤彩乃女流初段「思い出の棋具」

野田澤彩乃

女流初段



 1番長い付き合いの駒は、小学5年生のときから。東京・将棋会館の売店で販売していた、彫り駒です。何種類かあった書体の中から好きなものを選んでと言われたのだけれど、正直、違いがよくわからなかった記憶がある。それでも焦りながら選んだ書体は、「淇州書」。
 今でも詳しくはないけれど、自宅に増えた駒や、対局用の駒、売店に並ぶ駒など色々な駒を見てきた今、木地に四角さと固さを感じる駒。わたし的感性ではあるけれど、もしかしたら、選んでいたあのときにも、それを感じていたのかもしれない。木地に触れたときはきっと、ときめいたはず。それは今も、触れると落ち着くから。もしかして、幼少時の積み木の影響だったりするのかな、と、今フッと思ったり。
 駒について、どれくらい詳しくないかというと、書体の見分けがつかないくらい。それでも、駒を見るのは好きだ。艶々した駒。丸くて小ぶりな、いや、あまり小ぶりすぎても好みではなく、新品の明るい色よりも飴色になった木地。柾目よりは虎斑や根杢の方が惹かれる。まるで宝石、と思う。日本の伝統工芸品だ。コレクターがいるというのも頷ける。
 書体は、成香を見て、ランプみたい!と好きになった「清安書」。歩の払いも好き。そして、最初に選んだ「淇州書」も、あのとき選んだだけあって好きだと思う。「昇竜書」も我が家にあるひとつで、読みやすくて落ち着く。しかし、「錦旗」と「水無瀬」をよく聞くからか、駒といえばこの書体!と馴染み深い気もする。
 駒袋は、祖母の形見の着物でリメイクしてもらったもの。駒箱は持っていないのだけれど、玉手箱みたい、と思う箱もある。駒と同じく、伝統工芸品だと眺めたくなる。
 駒は、指したり棋譜を並べたり将棋盤の上で愛用することが多いが、わたしは写真撮るのが好きで、撮影に愛用している駒もある。といっても、やっぱり同じ駒なのだけれど。