棋士・女流棋士がふりかえる100年

内山あや女流1級「思い出の棋具」

内山あや

女流1級





 今から7年前、将棋世界に載っていた児玉龍兒さんの駒の記事を読んで、当時八重洲ブックセンターで開催されていた個展に足を運んでみました。ちょうどその頃、将棋会館で開かれていた子供将棋スクールで初段昇段による卒業が迫っており、それを達成したお祝いに父が駒を頼もうと言ってくれました。なんと小学生のまだアマチュア初段だった私に駒を一組オーダーメイドする権利が与えられたのです。
 タイトル戦でも数多く登場する児玉さんの駒は勿論一生物なので慎重に選びたいところ。
 そこで活躍した本が『将棋駒の世界』(著:増山雅人、中公新書、2006)です。木地、書体、駒師から手入れ方法まで、この一冊で将棋駒の基本情報を網羅することができます。分厚い本ではないこともあり何度読み返したか分かりません。
 まずは書体です。長録や無剣、阪田好など変わったもの(面白いので気になった方は是非調べてみて下さい)もありますが、冒険はせず基本の書体の中から選ぶことにしました。
 選ぶ上で注目したのは「王」の真ん中の縦線です。太いとどっしりと堂々とした印象に、細いとシャープですっきりとした印象になります。私の好みは太い方、ということで錦旗書を選びました。当時の好きな戦法は相矢倉、錦旗はまさに将棋駒界の矢倉と言えるでしょう。
 書体が決まったところで次は木地です。駒の形になる前の木をじっくり見て考えます。どれも模様が綺麗に揃っていて美しいです。華やかなのは孔雀杢で、その名の通り孔雀が羽を広げているように見えます。不規則な木目を楽しむことができますが、毎日使うには少し向かないでしょうか。逆に主張が少ないのは真っ直ぐ縦縞が入っている赤柾ですが、せっかくなら遊び心が欲しいなと思いました。目に留まったのは虎杢でした。斜めに入った縞が虎に似ています。はっきりした模様の中に優しさも感じられて、あまり迷わず決めた記憶があります。
 そして注文から2年の月日が経ち、名古屋の個展で完成した駒を受け取りました。箱の中から姿を現した時のワクワク感は今も覚えています。
 世界に一つだけのその駒は今日も自宅の将棋盤の上で輝いています。