棋士・女流棋士がふりかえる100年

真田圭一八段「思い出の棋具」

真田圭一

八段



 棋士になって数ヶ月後に購入した駒です。将棋連盟の販売部での購入ですが、通常とは少し違う経緯でした。当時、連盟販売部の職員の方が私の師匠、松田茂役と縁がありました。弟子の私がプロになったことをうけ、こう言われたことを覚えています。

 「プロになったら、普段の研究をいい駒でした方がいい。」

 そう言って、確か二組の駒を見せられた記憶があります。ただ、特に片方の駒を強く勧められました。将棋の駒、特に最高級と位置付けられる盛り上げ駒について、その良し悪しを見極める目は、何より多くの駒を実際に見ることで磨かれます。販売部で日常的に駒を取り扱っている職員の方の言には説得力がありました。ほぼ迷いなく購入させていただきました。
 当時は19才の新四段、駒についての知識はないも同然でしたが、一目で分かる特徴がインパクトがありました。それは「双玉」という、玉が二枚ある作りです。駒は通常「王」と「玉」に分かれていて、将棋が日本の国技・伝統文化たる重要なしきたりです。そのことを十分わきまえた上で、ある種の遊び心であえて二枚とも玉にしたのが双玉です。
 実は片方の玉の下側に「宗歩好」と書いてあります。これは、幕末の天才棋士と言われた天野宗歩が好んだ駒のスタイルがこの双玉だった逸話に基づいた表現なのです。面白いなと思い、購入の決め手になりました。
 ちなみに、もう片方の玉の下側には「一兵作」と書いてあります。駒の製作者の銘ですがどういう方なのか、しばらく分からなかったのですが、ある時本気を出して調べてみました。分かったことは駒の聖地、天童を拠点とする高名な駒師の方の七人ほどいるお弟子さんの一人であるということです。購入以来、九割方は研究用に使って三十年経ちました。色合いも大分深化していい感じになってきました。

 最後に、もし皆さんが盛り上げ駒を購入されたら、椿油を布に付けて磨くのは年二回ほどで十分。普段はから拭きをすれば、どんどん光ってきます。くれぐれも椿油の使い過ぎにはご注意を。