棋士・女流棋士がふりかえる100年

高浜愛子女流1級「思い出の棋具」

高浜愛子

女流1級




 私には普段愛用している将棋の駒があります。それは私が女流2級に昇級した時に催されましたお祝いの会で、師匠の山本真也先生からプレゼントしていただいた駒です。
 その駒は師匠にとっても愛用の駒で、それは師匠の師匠、北村文男先生から受け継いだとても大切にしていた駒です。北村文男先生とは、将棋のプロ棋士でもありながら、囲碁のプロ棋士でもあるもの凄い先生です。
 そんなとても貴重な駒なので、私としては大事にしまって置いて特別な時だけ使おうと思っていました。
 しかし師匠の山本真也先生は『駒は眠っていると価値がなくなる。もったいないからどんどん使いや』と仰ってくれました。以来、自宅で勉強の棋譜並べや、VS研究会の時には必ずこの駒を使っています。私にとって非常に愛着のある駒です。
 師匠も北村文男先生も、研究会で対局等に使用していたとしていたら、この駒は沢山の人に使われてどんな名勝負があったんだろうと想像する時があります。その使われ続けた歴史が、刻まれて来た歴史こそが、師匠の仰った駒の価値なのではないかと感慨深いものがありました。

 将棋盤も普段から愛用している立派なものが2つあります。
 1つは将棋好きの祖父が、アマ強豪の大会で優勝した時の賞品の盤です。これは今住んでいる家で普段から使っています。
 もう1つは、実家の大阪に置いてある盤で祖父が愛用していた盤です。その盤はなんと、あの升田幸三実力制第四代名人の直筆のサインが盤箱にある大変貴重な盤です(多分、世の中に数える程しかありません)。しかもこのサインは、祖父が升田幸三先生に直接書いて頂いたものだそうです。その時には指導対局もしていただき、お食事も一緒にしたと以前祖父から詳しく嬉しそうにお話ししてくれました。升田幸三先生の直筆サイン物はとても希少で、この将棋盤の価値は計り知れません。祖父も升田幸三先生と共に過ごした時間が詰まった大切な思い出の盤だと語ってくれました。

 駒も盤も先代の所有者から受け継いだ、とても大切な思い出の詰まった私の宝物です。そして、私が受け継いできたように、弟子が出来たり息子が将棋好きになったとしたら、私もこの大切な盤駒を託してまた次に繋げて欲しいと思います。そして色々な夢とロマンが染み込み続けて、より素敵な駒と盤になって欲しいと思います。