棋士・女流棋士がふりかえる100年

豊川孝弘七段「思い出の棋具」

豊川孝弘

七段



 36歳になった頃、将棋連盟の販売部で竹風の彫埋駒を購入した。
この駒に一目惚れをし、販売部を通るたびに買おうかどうしようか…ずっと迷って眺め続けていた。
ある時販売の方に、「今ならお出しできますよ」と声をかけられ目の前に見せてくれたのをきっかけに運命を感じた。意気揚々と自慢の駒を手に入れたのだ。
昔から「プロになったら、普段の勉強からいい駒で指しなさい。木は生き物だ。自分の物にしなさい」と教わったものだ。

 それ以後、遠征の時もお稽古の時も、私は毎日この駒を持ち歩いている。
約20年もの間、この駒と数々の対局を共にしてきた。
私のこの駒は、虎斑模様でキラキラとしているのが特徴だ。
使い込めば使い込むほど、手油でいい感じになってきた。使い込んで角が少し丸みを帯びてきたのも気に入っている。

 最近はお稽古先で、ネット将棋しか指したことがないという方も増えてきた。
ぜひ会館や将棋サークルにも足を運んでいただき、ネットだけでなく実際の盤上でも将棋を楽しんでもらいたい。
自身のお気に入りの駒で、カッコいい手つきで棋士を気取っていただきたいものだ。