棋士・女流棋士がふりかえる100年

野田澤彩乃女流初段「初心者の頃の思い出」

野田澤彩乃

女流初段

 わたしの初心者時代は、記憶は曖昧だが、記録がある。将棋連盟が発行していた「将棋マガジン」での一企画、「アヤノの挑戦」。初心者の女の子の上達模様をドキュメントした、1年半の連載企画。スタート時、わたしは小学4年生で、地元の川越児童センターの将棋教室で楽しく将棋を指していただけの子だった。その連載によると、と金と桂馬の連携で詰まされて泣いていた、そんな一小学生だった。と思いきや、記憶は曖昧で、すでに近所の公民館の例会で遊ばせてもらっていたという話がなくもない。その曖昧な記憶のなかでの川越児童センターで過ごした日々は、今でもたまに思い出す。久しぶりにサイトで検索してみたら、懐かしい風景がそこにあった。
 「アヤノの挑戦」に戻る。そこには、将棋の勉強方法からわたしのバレエ姿まで色々と書かれている。著者で先生との駒落ち実戦、宿題で出された詰将棋プリント、ファミコンでの日々の実戦、東京・将棋会館道場デビュー、対局室観戦、大会デビュー、合宿、女流棋士との二枚落ちなどなど。記憶は断片的にしか覚えていないのだけれど、将棋界ではいつも緊張していた。小学校でのわたしとは、真逆と言ってもいいくらい大人しかった、はずだ。もともと、ジッと座っていることなく踊り走り回る子だったらしいわたしも、将棋教室に通い始めてから、ジッと座っていられるようになったらしい。ちなみに、外で踊り走り回っていた記憶はないのだけれど。逆に、詰将棋プリントを抱えながら将棋盤の前で寝ていた記憶ならある。なんだか今とあまり変わらない。いや、今はもうちょっと起きている。成長しているはずだ。
 あれから数十年経ち、女流棋士になっている今は、初心者の小学生に将棋を教えたりもする。と金と桂馬のコラボ詰みの記憶が強く植え付けられているわたしは、「みんな一度はね―――」と言いながら、と金のとなりに桂馬を舞わせる。