棋士・女流棋士がふりかえる100年

神吉宏充七段「思い出の棋具」

神吉宏充

七段



 私が将棋に興味を持った時から、加古川の囲碁将棋倶楽部で売っていた駒が欲しくなった。当時の金額で1万五千円。中学生には決して安くない代物だったが、お年玉を貯めて買い求めた。そこには作者と書体名が書いてある。書き駒になれていた私は彫り駒の力強さに感動したものだ。ただ手入れの仕方がわからず、椿油をたっぷり塗って失敗もした。今なら乾拭きだけで充分だとわかっているが、当時はベトベトにした駒を盤に打ち付けていたものだ。
 棋士になって最初に出会ったのは静山だった。優雅で気品のある駒で、これを観て他の駒師の駒にも触れてみたくなった。そしてかなりの駒を収集したが、今では指導対局に竹風師の彫埋を多用している。どの駒も、正に職人技の光る逸品である。私が現代の名人と思うのは、掬水師だ。彫り、盛り上げなど仕上げは完璧で、感動以外の言葉もない。
 そんな駒好きの私だから縁があったのか、4年ほど前に昔の友人に将棋倶楽部で出会った。高校時代、よく将棋を指していた法兼さんという方で、少し年下だった。その彼が今は駒師をしているというのに驚き、見せてくれた駒にさらに驚いた。実に丁寧で、駒の魅力を引き出す技に感動。和晃という名で仕事をされているようだから、是非ホームページ等でご覧になられることをお薦めしたい。とにかく和晃師の駒は芸術家の匂いがして素晴らしい。職人技の粋を感じる竹風師、名人の領域の掬水師、芸術品の和晃師。他にも多々あるだろうが、私はこの三師の駒を眺められて幸せである。ちなみに和晃師の小野鷲堂書を掲載させて頂く。