棋士・女流棋士がふりかえる100年

深浦 康市 九段 がふりかえる思い出の一局

羽生善治-深浦康市


写真は第48期王位戦第3局のものです


深浦康市

九段

第48期王位戦第7局。平成7年9月25.26日。羽生善治王位。
指そうとした手の先に見落としがあり、しばし呆然とした時間が過ぎた。最終盤での15分ほどの考慮は対戦相手の羽生王位に自信と余裕を与えたに違いない。
第48期王位戦は「九州にタイトルを」と公言して自分を追い込みこのシリーズに賭けていた。35歳の自分には初タイトルのチャンスはもうここしか無い。タイスコアでの第7局は大詰めを迎えていた。
秒読みの声が続く。追い込まれ必死に考えているうちに奇抜な手が見えた。「残り2分です」の声に急かされるように▲77桂を着手。19分の考慮で指したその手は穴熊の守りの桂を跳ね出す手だった。
指してから詰めろ逃れの詰めろの凄い手だと気がついた。今度は「気づいてくれるな」、と気持ちの振り幅がまったくもって忙しい。
待つこと7分。△69銀不成を見て、ふーっと息を吐く。▲62金打を静かに着手。数手後の▲53角が先の▲77桂を活かした美しい手順になった。自分は勝てたのだ。

どんなに追い込まれていても諦めなければ道は開ける。
この1局の大きな教訓を胸に、今後も対局に臨んで行きたいと思う。