棋士・女流棋士がふりかえる100年

伊藤 果 八段 がふりかえる思い出の一局

伊藤果ー羽生善治


伊藤果

八段

第6回天王戦六段戦(1990年2月9日)
進行は棋士になって以来、初めての相掛かり急戦と展開して、早くも47手目▲3四飛と打たれて目の前が真っ暗になってしまいました。時刻は開始からまだ40分で、です。
羽生さんは研究通りの局面を迎えたようで、軽快な早指しでした。
考えれば考えるほど敗勢に思えて、頭の中では「もう潔く投了すべきか…」との思いで充満していたのです。
それにしても47手目で、開始40分で投了だなんて…苦悶…苦悶の中、あと1手だけ指そうと指した手が受けの△4一角でした。
「いやぁ、△4一角でダメですね。参りました」
終局後、まさか羽生さんからこんな言葉が聞けるなんて…。後日、この戦いでの△4一角が定跡となったのです。神様からの奇跡をもらいました。