棋士・女流棋士がふりかえる100年

佐藤 秀司 八段 がふりかえる思い出の一局

佐藤秀司ー渡辺明


佐藤秀司

八段

第50期王座戦二次予選(2002年2月8日)
「分かってるな」
夕食休憩時間。注文した出前の食事を済ませた私は盤前で一人苦吟していた。というよりはハッキリ悪くなった局面をどう格好を付ければいいのか分からないでいた。
ふと気づくと誰も居ない記録係の席に中腰になった担当の名物記者TUNA氏が居た。体型に似合わず猫のように忍び寄って来ていたのだ。
そして冒頭の言葉をそっとつぶやくように言った。
どういう事かを理解するのに時間は掛からなかった。
当時のタイトルホルダーは10連覇中の絶対王者。
その王者以来の中学生棋士になった新時代の旗手に大きな期待を寄せていたのは当然だろう。
結局、この対局は良いところなく敗れた。終局時にTUNA氏の姿は無かったが期待通りの結果になったと思って良いだろう。
どうせなら渡辺四段(当時)に挑戦者になって貰いたいと思って密かに応援していたが、挑戦者決定トーナメントの2回戦で敗れた。
しかし翌期は捲土重来、挑戦者になって王者を追い詰めた。新しい時代の足音を間近で聞けた思いがした。