棋士・女流棋士がふりかえる100年

飯島 栄治 八段 がふりかえる思い出の一局

飯島栄治ー有吉道夫


飯島栄治

八段

※2023年10月2日にご寄稿いただきました。

第49期王座戦二次予選(2001年2月2日)
棋士になって24年が経とうとしている。
多くの対局を指してきたが、必ず思い出す一局がある。
棋士一年目に有吉道夫九段と対戦の機会に恵まれた。当時私は21歳、有吉先生は65歳。私が幼い時にテレビ対局で見せていた火の玉流の攻めが印象に残っていて憧れの棋士だった。
将棋は私が先手で本格的な矢倉に進み、先攻できる展開。有吉先生の得意の棋風を封じたと考えていたが、勝負所に入った夕食休憩過ぎから雲行きが怪しくなっていった。何度も懸命に攻め込んでも的確に受け止められてしまい、火の玉流の攻めを出すまでもなくあっさりと負かされてしまった。
終局は20時37分。疲れ果てて朦朧としている私に対し有吉先生は朝と全く変わらない表情、感想戦もみっちりと1時間半。プロの世界の厳しさを知った一局だった。しかし、この一局があったからこそ、棋士として今までやってこれたと思っている。関西将棋会館での対局も残り少なくなっている。一年目の初心を忘れずに一局一局を悔いがないように指していきたい。