棋士・女流棋士がふりかえる100年

高野 智史 六段 がふりかえる思い出の一局

高野智史ー木村一基


高野智史

六段

第50期新人王戦記念対局(2019年12月5日)
 新人王戦で優勝するとタイトル保持者いずれかとの記念対局が行われる。私の場合は木村一基王位。ほかでもない師匠が相手だった。
 師匠は悲願の初タイトルを夏に獲得した。対戦が決まる前から「これはやることになるだろうね」と二人笑い合っていた。
 対局当日。場所は特別対局室ということもあって一層気合が入る。二人で盤を挟み向かい合ったところで、師匠がおもむろに「平手か?」と口を開く。ある研究会のお昼のことだ。「今度弟子と記念対局するんだけど、始まる前に言ってやるんだ。香落ちにしようか?って。」あははは、と楽しそうに笑う師匠の姿が思い出される。まさか本当に言うとは思わなんだ。早くも形勢不利を自覚する。
対局の方は中段で耐える王様をギリギリで捕まえ、最後は私が胸を借りる結果となった。寄りそうで中々寄らない王様、何時もながら受け師の力を感じた一局だった。
 終局後の関係者含めての感想戦。師匠の負けた時とは思えないニコニコした姿が印象的だった。
 師匠がタイトルを獲って、自分も初めての棋戦優勝で続いて、ここでは詳細は省かせて頂くが表彰式では師匠に思いの丈を伝えることが出来た。棋士生活でこれから何があっても、この時が一番の思い出というのは変わらないだろうなと思う。