棋士・女流棋士がふりかえる100年

石高澄恵女流二段「初心者の頃の思い出」

石高澄恵

女流二段

中学を卒業したばかりの春休み、当時小学生だった弟が友達に将棋を教わったといって私にもルールを教えてくれました。それから厚紙で作ったお手製の盤と駒を使い毎日二人で遊んでいたのですが、数日たって新聞の将棋欄を眺めていた時、駒の配置や動きが弟に教わったものとだいぶ違うことに気が付き、本屋で入門書を買ってきて正しいルールを覚え、独学で将棋を楽しむようになりました。
高校生になってしばらくたった頃、近々函館のデパートで行われる将棋まつりに大山康晴十五世名人が出演して講演や指導対局を行うということを知り、出掛けることにしました。
当日の講演会では、上達へのアドバイスとして、良い道具を持つことや盤面全体の様子に気を配ることなどを話されていて有意義な時間でした。そして、大山先生の指導対局(十面指し)は運良く私も受けられることになりました。始まる前に係の方から棋力を聞かれたので「分かりません」と答えたらなぜか二枚落ちで対局することとなり、今思うと明らかな手合い違いで、九~十枚落ちか妥当なところでしたが、当時はただ将棋を指せることが嬉しくて無我夢中で指していたような気がします。
大山先生は私が初心者であることをすぐに察知して、何とか形になるよう緩めてくださったのかもしれません。終盤、私の玉が一手詰めの状態を迎えた際には、「それだと詰んでしまいますよ」とおっしゃって他の指し手に変えるよう勧めてくださったのですが、私は本で読んだ「マッタはいけない」という教えを守り、先生のお申し出を辞退して詰まされ投了することにしました。初心者の私が大変貴重な機会を得られたことで、将棋の持つ魅力にどっぷり浸かっていくこととなりました。