棋士・女流棋士がふりかえる100年

阿部光瑠七段「初心者の頃の思い出」

阿部光瑠

七段

 私は、何度もパソコンと睨めっこしながら、初心者時代の思い出とアマチュア時代の思い出を書いては消し、書いては消しを繰り返していた。

 そして、ようやく気付いた。気付いてしまったのだ……。
 【将棋】のこととは一言も書かれていなかったことに……。

 冗談はさておき、私の初心者からアマチュア時代の頃の思い出はいくつかある。
 ①母が気まぐれに借りてきた【ヒカルの碁】という名作との邂逅。
 当時は【ヒカルの碁】をビデオで見て、将棋棋士を目指すという謎ムーブをかましたが、今となっては当時の自分を全力で褒め称えてあげたい(笑)。

 ②滅多に褒めない両親が、将棋の大会で優勝すると唯一褒めてくれたこと。自分自身大して取り柄がないと思っていたから、厳しかった両親に褒められるのは非常に嬉しかった。

 ③碌に勉強もせず、日夜ゲーム三昧で惰眠を貪る小学四年生時代の私が、将棋に触れ、初めて人生に目標を持ち、生を限りなく実感したこと。 

 ①から③は思い出と言えるのか怪しいものもあるが、私自身がよく思い出し、どれも稀に思い出しては懐かしむ記憶たちだ。

  とは言いつつアマチュア時代の一番の思い出は、何と言っても奨励会試験に合格できたことかも知れない。

 人生に躍動感を初めて感じることができ、本当の意味でスタ─トラインに立てたと思えた出来事。奨励会試験の問題として提出された21手以上の詰将棋に苦戦した挙句、制限時間をほとんど詰将棋に費やしたことも今となってはいい思い出だ。

 初心からアマチュア時代の思い出の中では、やっぱり奨励会試験に合格できたことが、私の一番の思い出と言えるだろう。