棋士・女流棋士がふりかえる100年

豊川孝弘七段「初心者の頃の思い出」

豊川孝弘

七段

私が子供の頃は、学校の教室に将棋盤と駒があった。
ある時、何がきっかけだったのかは忘れてしまったが、学校で将棋がブームとなり、休み時間には毎日クラスの友人達と盤を挟んでの将棋大会が開催されていた。
そこで私は将棋に目覚める事となる。
学校の将棋だけでは物足りなくなり、頭角を表した友達数人で将棋会館へ通うようになった。
当時の私は、新小岩という駅の近くに住んでおり、千駄ヶ谷にある将棋会館には総武線で乗り換えなしで通う事ができたが、中学生の私には電車賃が心もとない。お昼を我慢したり、お小遣いを節約したりして、何とか定期券を購入して通いつめたものだ。
買えなかった時は、歩いたり、自転車で通ったり、お陰様で筋肉と体力がついた。
将棋会館では色んな出会いがあった。将棋友達も出来たし、テレビでしかみた事ないようなプロの先生が普通に歩いているのを見た時は驚いたりもした。
初めてプロの先生に将棋を教わった時は、六枚落ちで数局だったと思う。手も足も出ない見事なまでの完敗だった。
その後も何度か気にかけていただき教わる事ができた。私がプロを目指すようになったのもその頃からである。
学校も行かず、毎日通い続けた事もあり、職員の方からも優しくお声がけいただけるようになった。
食事に連れて行ってもらった事もある。嬉しかった思い出だ。
私が諦めずにプロを目指し、無事に四段になれたのも、こういった優しい支えがあったおかげだと思っている。