棋士・女流棋士がふりかえる100年

阿部光瑠七段「師匠との思い出」

阿部光瑠

七段

 師匠――中村修九段(当時八段)と初めて出会ったのは、私が小学五年生のときだった。
 何月何日とかまでは流石に覚えていないが、青森県で行われた将棋祭りの棋士指導対局のイベントで、中村修九段と出会ったことは今でも鮮明に覚えている。
 私は、中村修九段との指導対局に平手で挑み、結果は引き分けだった。
 当然リップサ─ビスはあるだろう。それでも大いに褒めてもらったことは、師匠との数少ない思い出の一つだ。

 奨励会三段の頃、師匠が時々私の棋譜を見てくれるようになった。
 私は、当時角換わりが戦型として好きだったこともあり、今で言う一手損角換わりを先手番でもよく指していた。師匠が私の棋譜を見る度に「んんん?」という反応をよくしていた気がする。
 当時はこれが『自分の将棋!』と私は考えていたものの、今思えば当時の師匠の反応は自然なものだと思う。私の作戦は先手番であるメリットを自ら消しているのだから……。将棋の内容は兎も角、奨励会三段時代に師匠に教えてもらえたのはいい思い出である。

 そしてもう一つ。
 私の中で、一番強く印象に残った師匠との思い出。
 それは私が新人王戦で優勝し、新人王表彰式の日に謝辞を終えて、トロフィーを受け取ろうとしたら、脱兎の如く素早い動きで、師匠が私より先にトロフィーをどういうわけか、受け取ったこと。
 突然の出来事に私は唖然としながら思った。
 『一番最初にトロフィーに触れたかったなぁ……』と。
 私の気持ちを露知らずの師匠は、自分が優勝したかのようにトロフィーを結構長々と持ち続け、弟子の前ではあまり表情を崩さない師匠が、終始嬉しそうな表情をしていることがとても印象的だった。
 新人王戦で優勝することができて、師匠に少しは恩返しできたと思えたし、少しはしゃぐ?姿の師匠を見れたのもよかったと思う。
 これが私にとって、一番強く記憶に残っている師匠との思い出だ。