棋士・女流棋士がふりかえる100年

野田澤彩乃女流初段「師匠との思い出」

野田澤彩乃

女流初段

 師匠との思い出。と聞かれると、真っ先に思い出すのは、散歩。場所は公園。入門当初、あまり話をしないわたしを心配してくださった師匠が、公園に散歩に連れて行ったりしてくれていた。ちなみに、わたしの師匠は伊藤果八段で、入門は中学一年生のときである。ご自宅で開かれていた教室に通い、一門の研究会にも参加した。初めてご自宅に伺った日のことは、残念ながら一場面しか覚えていないのだけれど、弟子入りのお願いに伺った日が初訪問だった。
 伊藤果八段の名を聞くと、詰将棋を連想される方も多いと思う。研究会などでご自宅に伺ったとき、師匠作の詰将棋を出題されることもあり、その度に早く解けるようになったら楽しそう、と思いながら毎回毎回脳内迷路に迷い込み、ぐるぐるしていた。
 作る機会に恵まれたこともある。一時期、詰将棋創作の部活が作られた。将棋連盟内には、部活動がいくつかある。そのなかのひとつで、詰将棋作家でもある師匠をはじめ、棋士の詰将棋作家が数人、生徒の棋士と女流棋士が数名で活動していた。作品を目指す詰将棋創作に挑むのは初めてで、でも修正してもらいながら作る詰将棋は楽しかった。解くときとは違う感覚のパズル感。というより、生徒の作った詰将棋が、みるみる修正されていく様が、難解なパズルや知恵の輪が解けていくような、そんなマジックを見ているような瞬間も面白かった。そして、褒めてもらえた作品ができたときは、嬉しかった。あれから、詰将棋を作ろう!と将棋盤に向かってはないけれど、これを書いていたら将棋盤を出したくなってきた。あの日々を思い出しながら。
 師匠との思い出といえば、ご自宅での出来事と、詰将棋が二大思い出である。そして、師匠の姿といえば、タバコとジッポーと扇子。