棋士・女流棋士がふりかえる100年

遠山雄亮六段「師匠との思い出」

遠山雄亮

六段

中学生になり、奨励会入りを意識し始めた遠山少年には難題が待ち受けていました。
それは師匠がいない、ということ。奨励会を受験するためには師匠につく必要があるのです。

研修会に所属していた私は、同学年で仲の良かった松尾歩現八段と一緒に幹事の先生に相談をします。
当時の幹事は佐藤秀司現八段でした。

佐藤幹事からは「師匠を希望する棋士を5名書いてきて」と指示がありました。
5名中4名に当時のトップ棋士を書いたのはいかにも少年らしいところ。
あと一人の欄に、研修会で仲が良かった少年(奨励会には進まなかった)の師匠だった加瀬純一現七段の名前を思い出し、書きました。
すると佐藤幹事は「うん、加瀬先生がいいね」と。

ご紹介いただき、初めて師匠の教室に伺った時には、飛車落ちと平手で2連勝。無事に弟子入りを認められました。
いま思うと実力以上の結果で、花を持たせてもらったわけですが、当時の遠山少年の自信になったことは間違いありません。

その自信を胸に、中学生の全国大会で優勝。奨励会も合格して棋士を目指し始めます。
奨励会員になってからは、毎週末に開催される師匠の教室に通い、兄弟子の佐藤和俊現七段、指導に来られていた木村一基現九段によく教わりました。
しかし師匠に教わることはあの時から一度もありませんでした。

師匠に心配をかけながら、2005年に25歳で四段昇段。

そして師匠の引退も間近に迫った2007年秋。初めてにして、一門で唯一の師弟戦が実現します。
弟子入りの時から約15年ぶりに盤を挟むことになり、嬉しさあふれたまま対局へ。
肝心の対局は不利になり、師匠が時間に追われたところをひっくり返して逆転勝ちという内容でした。

私は当時にしては珍しく大学に進学したり、棋士になってからも普通の人とは違う道を歩んでいます。
師弟戦も頼りない内容で、弟子入りから今まで心配をかけてばかりです。
それでもずっと温かく見守っていただいていることに感謝しています。

いまでも月に一度、師匠の教室に伺います。
終了後はお客様を交えて飲みに行くのが恒例です。月に一度お酒を酌み交わす師弟関係は将棋界では珍しいでしょう。
昨年4月には岡部怜央が四段に昇段して一門で4人目の棋士が誕生しました。
小さな一門ですが、師匠を中心にまとまりのいい一門だと思います。
あの時、佐藤幹事が「うん、加瀬先生がいいね」とおっしゃったのが、私にとっていい縁となりました。